出会い、「新世界」

 初めて見たのは、劇場公開された1986年の暮れか年が開けてからだったと思います。
 このモノクロのスチル写真に何か惹かれるものがあったのでしょう。ビデオをレンタルして観ました。
 冒頭からしっくり馴染んだ。何の違和感もなく、 映画の中に すっと引き込まれた。

「新世界」。モノクロで描かれた、あの ウィリーの部屋!!
 ベッドに転がり口ずさみながら人を待つ時間。
 深夜のTV番組。 壁に移る影。マッチを擦る音。
 寝ている顔に射す朝の光。電話のベル、受話器。
 TVディナー! 缶ビール、噛み切れない肉。
 競馬に行く前に髭剃り。シャツ、皮のハーフコート、帽子。
 陽だまりでトランプ。ツキ。

 日常の何気ない些細な事、時間がとても愛おしく感じられる。
 体に染み入る幸福感、その実感がある。
「う~ん、いいなー」。
 生活もそうだけど、ジョン・ルーリーの長い顔と額、目つき。
 自分も似た系統だ(笑)。
 でも鼻は、リチャード・エドソン(笑)

 その日が来た。エヴァは去る。
 ウィリーは部屋で突っ立ったまま動かず、視線はどこかを。
 エディが来た。二人は缶ビールを飲むしかない。エヴァはもういない。
 当時はそう思わなかったのですが、後年、このシーンを観て、
「まさか、ウィリーでも寂しいのか?!」と、驚きました(笑)。
 僕も、別れ、というものを幾つも経験しましたが、
 「どんなにクールで、感傷とは無縁に見える人間でも、寂しいと思う時があるんだ!」
と、慰謝になるというか、落ち着きましたね(笑)。

 友人と二人、借りた車でドライブ。最高だよ。
 他愛のない会話、流れていく風景。 ロードムービーを観ている時の至福です。
 いつしか寒さで窓は曇り、会話はとっくにない。
 叔母さんが出してくれたハンガリー?料理。エディは食が進まなかったけど、
僕には美味しそうに見えました(笑)。

 エヴァのいるクリーブランド。
 場末のホットドッグ屋。カンフー映画。一面吹雪の エリー湖。
 まあ、やる事なんてないでしょうな(笑)。もともと二人は、観光なんて興味なし。
 ただブラブラダラダラ、したいことなんて … 。
 潮時。二度目の、別れ? いや、
 思いついた! エヴァと三人、フロリダへ!!

 出発時は三人のテンションも高い。 夜の車内に鳴り響く♪ I Put A Spell On You ! 
「悪くない、ドライブミュージックだ」。エディは気に入った、顔が輝く。

 フロリダ。一応、サングラスも買った。
 でも、長距離のドライブは疲れます。
 モーテルの部屋、ベッド。ピーナッツの空の瓶。一人簡易ベッドのエディ。
「ラクそうだ」「悪くない、お前らを許す」。消灯。明日はバカンス … 。

 一人目覚めるエヴァ。二人はドッグレースへ!
 変わらない、どこへ行っても。場所がどこだろうと。
 犬に負けた二人。エヴァに構わず言い争う。花瓶割った、でも謝ったウィリー。
 気分直しに海辺へ。閑散とした浜、他に誰もいない。
 何を思い、三人は歩いていたのか。

 犬で消えた金は馬で取り戻す! 引くわけにはいかない。エヴァは再び一人。
 賭け事と女は両立しない、そんなジンクスがウィリーに? 
 連れて行ってもいいと思ったけど … 。
 でも、勝ったよ、ウマで!(笑)

 エヴァは優しい。偶然手にした金を二人に置いていく。
 上機嫌で帰って来た二人。部屋は暗い。エヴァの置手紙に気づいた。
 空港へ。でも、エヴァを連れ戻したところで、どうする? 

 別れ。顔を見ることも言葉を交わすこともない、別れにもならない。
 でもそれが、実にらしいよなー。
 ♪ I Put A Spell On You
 エヴァが好きだった曲。

原点、帰る処

 この映画と出会ってから、もう長い年月が経ちました。
 実際、あの二人のように生きてきたかというと、現実はなかなか。
 社会の中に適応していく。特別な人との時間を続けていく。そのためには、
本来の自分を押し殺し、相手に合わせることが必要。それは当然。
 でも、いつか無理が生じる、限界がある。
 独り。どうしようもない疎外感、責苦。それが自身の否定に向かう。

 そんな時、
 ふと「ストレンジャーザンパラダイス」、あのスチル写真が目に入る。
 あ! 
 そうか。 … 俺の原点。

 思った。
 「ウィリーやエディが会社勤め? できるわけないやんけ!」(笑)。
  仕事に限らず、世間一般でそれが常識、普通とされている … もの。
 二人はそれを意識することもなく、自由に、ただ、気の向くまま。
 この映画の二人と一緒、同じだもん、俺。

 そうだよなー。
 スーっと気分は晴れ、ラクになる。
 自分を見失った時にはいつでも、この映画を思い出すだけで取り戻せる。
  ああ、帰る処がある。

 この映画を観た人には大げさに思えるかもしれませんが、
 僕にはそんな作品です。

ジャームッシュに

 ジャームッシュの作品では、 この映画と「パーマネント・バケーション」、
「ダウン・バイ・ロー」を含めた初期の三作が、永遠ですね。
 もう、僕にはファミリーみたいなものです(笑)。

 その後もジャームッシュの映画は毎回楽しみにして観ているのですが、
「ミステリートレイン」以降、どうもいまひとつです。どーも、んかなー…。
 しばらくしてDVDで観ると、そんなに悪くなかったりするんですけど(笑)。
 これはつまり、初期の三作の「後遺症」ですね。
 ジャームッシュ という名が、やっぱり期待させてしまう。
 比べるなんて無意味だけど、おそらくこれからも … 。

 最後に、現在でもコンスタントに作品を発表しているジャームッシュに一言。
 とっとと「ストレンジャーザンパラダイス」を撮れ!!(笑)

 

 



 


 


 
 


 

著者

たねってぃ

1970年生まれ 千葉県在住

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