岡崎京子の漫画を知ったのは、′89年頃。
 「pink」の広告が、朝刊に載っていた。
 私が目を止めたのは、評論家の推奨文の中に、
「ゴダール」の名前を見つけたからだ。
 確かゴダールの影響がどーこー、と書かれていた。

 当時の私はゴダールの映画に傾倒し、「ゴダール」という名前に、
ひどく過敏になっていた。
 私はすぐに本屋へ飛んで行き、「pink」を買った。

「pink」

 

 主人公のユミちゃんは昼間はOL。夜はバイトでホテトル!
 あの画のタッチで、あの描写。正直、驚いた(笑)。

 欲しい物があれば、体を売って買う。
 「すべての仕事は売春である」
 あとがきで引用されているゴダールの言葉の通り。
 資本主義。’89年って、バブルがはじける、寸前?

 欲望に忠実で、生き生きしたユミちゃんの行動、言葉。
 そのリズムに自然と引き込まれる。
 妹ケイコとのやりとり。面白いなー。元気が出る。
 風邪ひいた時、もものかんづめ、食べたよ(笑)。

 💭から外れた言葉。
 やっぱ映画もそうだけど、モノローグが好きなんだなー、俺。
 そのカット、間がね。
 岡崎京子の漫画に、惹きつけられる要素の一つ。
 日常の中で、ふと思いにふける瞬間。
 この世界を、自分を、外から見ている。

 でもなんつっても、ワニ。ワニだよなー!
 バリバリと何でも食べる。
 生肉から、近所のババァの飼ってるプードル、
ピーナツバターを塗って薄切りのバナナをのせたクッキーまで。

 日々のストレス、鬱憤から怒りまできれいに平らげてくれる。
 ワニはワニ。名前なんて付けない。
 ユミちゃんのスリルとサスペンス。

 「シアワセなんて当然じゃない?」ユミちゃんは言う。
 「オレはこんなにシアワセでいいのかな?」ハルヲは不安になる。
 ハルヲが思い出せなかった言葉。
 「シアワセを恐れるものは シアワセになれない」

 ハルヲが最後に見た青空。
 読んだ当時は、そんな心境だったんだ。

「ジオラマボーイ パノラマガール」

 「pink」に続いて読んだこの作品。
 この2冊は、その頃本当何度も読んだなー。

 ボーイ・ミーツ・ガールの物語。
 場所はゴダールの映画「彼女について知っている二、三の事柄」のような新興住宅地。
 津田沼春子と神奈川健一の邂逅。 しかし、んで津田沼?(笑)

 高校を中退し、毎日寝たきり少年の神奈川健一は、
睡眠時間をグラフにつけている。
 「最高21時間で平均14時間 今日は9時間でちと短かったなー」

 おお、その時の俺と、まったく同じだぜ!(笑)。
 当時の私は浪人の身。そう、寝てばかりいた。
 いや、とにかくさー、寝るしかなかったのだ(笑)。
 明かな現実逃避。布団の中へ。胎児のように。

 この漫画も春子の小学生の妹が面白い。
 「妹」「家族」、あと「売春」(笑)。
 岡崎京子の漫画に欠かせない、永遠のモチーフだ。

「TAKE IT EASY」

 これも当時、毎日のように読んでた。
 主人公の弥七が浪人生だったから(笑)。
 タイトル通り、読んでる間だけは、気楽になったよ。

 古き良き、昭和の「家族」を描いた、いい話だ。
 縁側の陽だまりのように、穏やかで暖かい。
 ほんの束の間だけ、そんな気分にさせてくれる。

「リバーズ・エッジ」

 その後、大学生(笑)になってからも、
本屋で岡崎京子の漫画を見つけては、買って読んでいた。

 その中で、岡崎京子の集大成とでもいうべき作品が、
「リバーズ・エッジ」だ。

 ’94年、初版発行。
 ’90年代半ば。すでにバブルははじけ、大きな災害や事件事故が多発した。
 来るべき1999年に向けて…。
 大衆の間にも、無意識のうちに終末感が入り込んでいた。

 それまでの作品と違って、シリアスで陰鬱。
 扱ったモチーフも、当時の、いや現在まで続く様々な問題。
 でも描かれたその世界は、間違いなく岡崎京子の世界だ。

 岡崎京子を読んでいたのは、十代の終わりから二十代半ばまで。
 それ以降は、読んでいない。
 たやすく本棚から手に取れない。読むのが怖い。
 読むとひどく感傷的になるのが分かっているから。
 感傷が煩わしいと感じる、そんな齢になっていったのだ。

 あの頃の自分や、当時の日々が嫌なわけではない。
 肯定も否定もせず。
 何も知らないガキだった。それで、片付く。
 ガキだった自分を思い出すのは、不健康で痛々しい。
 思えば…いや、思い出さないでいいや。

 あの頃はあの頃なりに精一杯? それなりに生きていたんじゃん?(笑)
 それ以外の自分なんて、想像できない。
 あれが自然だったんだ。

 そんな時期だったからこそ、読んでハマったのかもね。
 読むとあの頃の空気が、激しく喚起される。
 ジリジリと、胸をえぐられるような?
 岡崎京子の漫画は、あの登場人物たちは、
それほど深く、あの頃の自分に入り込んでいたのだ。

映画

 近年。何作か立て続けに映画化されている。
 まあ、あれだけの漫画だから、そうしたいのは分かる。
 観る気なんて、一切ねーわ。
 狙い、つーか、そんなんが大体分かる。えーわもう。

  もしも映画化するとしたら、誰が監督に?
 そんなもん、ゴダールしかいねえだろ!!