’84年。新日本は、ひとつの大義に向けて始動した。
 猪木のIWGP奪還だ。もちろん、ホーガンを倒して。
 そんな中で、正規軍と維新軍の抗争も続いていた。

 2・3雪の札幌。前年の9月以来、久々の長州vs藤波戦が組まれた。
 ♪「パワーホール」が会場に鳴り響く。が、長州の姿は見えない。
 なにやら観客は騒然としている。
 ようやく目に映った長州の顔は、鮮血にまみれていた。

 驚いた。初めは観客にやられたのかと思ったよ。通り魔的な暴漢に。
 「山本さん、藤原喜明ですか!?」
 え? 藤原? 藤原って…、誰だよ!?
 試合はノーコンテスト。
 藤波は一人荒れ狂い、極寒の外の闇へ姿を消した。

 この頃、学校の教室で誰かがスポーツ新聞を読んでいた。
 見出しには大きく「前田 新団体」の文字。
 新団体? この当時、プロレス団体は新日と全日しか考えられない。
 ファンの知らぬ所で、予期せぬことが進行していた。

 反乱、テロ、革命。物騒な言葉が飛び交う中、
毎週のTV放映は、正規軍と維新軍のタッグマッチばかりだった。
 もう、飽き飽きしていた。どっちが勝とうがね。  

 ビッグファイトシリーズ第2弾、最終戦、4・13蔵前国技館。
 当初の予定は、藤波vs長州のWWFインター選手権試合だった。
 だが長州は、正規軍との全面決着戦を要望していた。
 蔵前は急転直下、風雲急を告げた。

4・19蔵前

 長州の要望通り、カードは変更された。
 「正規軍vs維新軍 5対5勝ち抜き戦」!
 勝ち抜き戦? 凄い! 画期的だ。よく考えたよ。
 どうなるのか、展開がまったく読めない。

 当時私は中二だった。クラス替えがあって、ピリピリしてたんじゃん?
 毎年、この春っていう時期は落ち着かねー。
 だが抗争が勃発することもなく、私には新しい友達ができた(笑)。

 両軍入場。♪入場テーマが耳に新しい。
 維新軍の面々。野武士、つーより、雑兵の集まり。小汚い(笑)。
 対して正規軍。全員真っ白のトレーナー。爽やかだ。華がある。
 白と黒。試合前に、すでに勝負はついていたか?

 両軍からメンバー表が提出され、出場の順番が発表される。
 維新軍は、オーソドックス。順当な感じだ。
 対する正規軍。「先鋒、藤波辰巳!」
 会場が割れんばかりの歓声に包まれる!
 これでもう、試合の行方は決まっちゃっただろ。
 先手必勝。まさにその通りだ。

 大将は猪木、そして長州。
 う~ん。2人のシングル戦は、実現するのだろうか?
 どういう決着を迎えるのか、予想なんてできない。
 維新軍の先鋒、小林邦明がコールされ、闘いは始まった。

 藤波辰巳 ’53年生 ’70年日本プロレス入団 ’71年デビュー。
 小林邦明 ’56年生 ’72年新日入団 ’73年デビュー。

 藤波vs小林邦明。 もの凄い新鮮なカードだ!(笑)
 ドラゴンは先鋒がよく似合う。やっぱスターだよ。

 ソバット、フィッシャーマンズスープレックス。
 小林はいつもと変わらず、自分の持ち味を出した。
 ドラゴンも生き生きしていた。かつてのJrヘビー時代を彷彿とさせる闘いぶりだ。
 フィニッシュは電光石火、ジャーマンだ!!
 闘いの幕開けを飾るに相応しい、好試合だった。

 維新軍次鋒 寺西勇  ’46年生 ’66年東京プロレス!入団 同年デビュー。
 シブい、つーか、苦い。苦み走っている。
 この上ないオッサン。骨の髄まで、国際プロレス。
 レスラーとしての魅力なんて、中坊に分かるはずない!(笑)

 寺西は負傷している藤波の手を、執拗に攻める。
 だがさすがの藤波。掟破りの逆サソリを極め、寺西を退けた。
 藤波も日本人相手だといいね。格が違うよ。
 あっという間に、二人を片付けた!

 維新軍中堅 谷津嘉章 ’56年生 ’80年新日入団 同年デビュー。
 アマレスでの栄光、入団当時の華々しさなど、このリング上の姿にはない。
 路上の片隅で、乞食同然のところを発見された、つー感じ(笑)。
 プロとして生きていくため、過去などは一切捨ててきたのだ。

 藤波も実力者相手に2試合闘い、消耗している。
 アクシデント的な結果だったが、谷津の勝利に違和感はなかった。

 正規軍次鋒 高田伸彦 ’62年生 ’80年新日入団 ’81年デビュー
 この時まだ、デビューして2年目だよ! すげえ! やっぱ天才だ。
 この第4試合。この日のベストバウトでしょう。
 身体はまだ細く、プロとしてできあがってはいない。
 だが周囲の期待に臆することなく、素晴らしいファイトを見せた。

 打点の高いドロップキック、ツームストン・パイルドライバー。
 そして、ジャーマン・スープレックス!
 高田のジャーマンの美しさは、歴代の選手の中でも一、二だと思う。

 ミサイルキック! うわー、もう決まったと思ったよ。
 勝っても全然おかしくなかった。惜しかったなー。
 佐山、前田が去ったこの時、高田はまさしく新日のエスペランサだった。

 正規軍中堅 木村健吾 ’53年生 ’72年日プロ入団 同年デビュー ’73年新日移籍
 木村健吾? 当時、本当嫌いだったわ~(笑)。
 やる事なすことすべて鼻につく。 弱いくせにいきがってよー。

 新日なんてさ。1に猪木。2に藤波(坂口は前線から退く)。
 でー、3,4がなくて、5,6もねえよ。
 木村健吾なんて、やっとその次ぐらいじゃん?(笑)。

 実際の実力差は分からんが、2戦している谷津には負けられない。
 雪崩式のブレーンバスターから、稲妻を決めた! 
 喜ぶな、つーの(笑)。勝って当たり前だって。
 そんな健吾も、現在では昭和プロレスのレジェンドの一人。

 維新軍副将 アニマル浜口 ’47年生 ’69年国際プロ入団 同年デビュー。
 浜口は国際プロの時から、試合をよく覚えていた。
 試合運びがうまい。技の一つ一つにキレ、味がある。
 エアプレーン・スピン、バックフリップ、ジャンピング・ネックブリーカー・ドロップ。
 小柄だけど力強くて、インパクトがあった。

 国際軍団として新日に来てからも、嫌いじゃなかった。
 観客を煽るマイクアピールも、プロとして一流だ。
 マサ斎藤がいない間の、長州のベストパートナー。

 健吾とやってどうかと思ったけど、やっぱり浜口が勝った(笑)。

 正規軍副将 藤原喜明 ’49年生 ’72年新日入団 同年デビュー。
 この時の藤原のファイトスタイルなんてさー、ごくフツー。
 頭突き、コブラクロー、殴る蹴るのラフ攻撃。
 関節技なんて、何ひとつ見せてない。

 あ、藤原が勝ったっていう、微妙なフォールがあった。
 でもファンは皆、まっさらな形での、大将戦を望んでいたのだ。
 両者リングアウト引き分け。蔵前は大歓声。
 藤原は満足げに手を上げ、ファンの歓声に応えた。

 この日、正規軍は気迫で優ってたね。闘志を前面に出し、先手先手で攻めていた。
 それに押されたのか、維新軍にはいつもの勢いがなかった。
 ドラゴンに出鼻をくじかれたのも、致命的だった。

 副将戦が終わった瞬間から、館内は異様な熱気が包み始める。
 次の試合へ向けて、皆、高まる興奮が抑えきれない。

 いよいよ迎えた大将戦。猪木vs長州!
 しかし、なぜか私の気持ちは冷めている。応援に身が入らない。
 ふわふわと、心と体が分離しているような。

 その理由は、明々白々だった。
 あれ? 俺、どっちを応援してるんだっけ?
 私は困惑していた。

雀百まで踊り忘れず

 アントニオ猪木 ’43年生 ’60年日本プロレス入団 同年デビュー
            ’66年東京プロレス旗揚げ ’67年日本プロレス復帰
            ’72年新日本プロレス旗揚げ
 長州力 ’51年生 ’74年新日本プロレス入団 同年デビュー

 猪木と長州。プロとしてのキャリア、実績の差は歴然。雲泥の差。
 それ以前に何より、二人は師匠と弟子なのだ。
 その関係は何があろうと、不変だ。

 私の心は、静かに揺れていた。
 長州に勝って…いや、猪木に負けてほしくない。それはあり得ない。
 だが、長州にも負けてほしくない。
 そうか。どちらにも負けてほしくはないのだ。

 私かあの娘か、この場でどっちか決めてよ。
 えー、んなこと言われてもさー。いやー、困っちゃうな~。
 なんてこたあ、なかったけどね(笑)。

 長州の革命後、毎週のようにタッグでぶつかっていた両者。
 だが、いざシングル戦という形で、こうして対峙すると、
レスラーとしての格の違いは、明らかのように見えた。

 う~ん。観たいような観たくないような。
 どうせならもう少し先に、とっておきたいような…。
 私の迷いは、開始前まで続いた。

 黙って、試合の行方を見届けるしかない。
 試合開始のゴングが鳴った。

 猪木も長州も、己のファイトスタイルは変わらない。
 意気込むこともなく、冷静沈着に試合を運んだ。
 二人の胸中は、いかなるものだったのだろうか?

 長州は、自分の成長を認めてもらうように。
 猪木は、長州の成長を確かめるように。
 この時の猪木には、まだそれだけの余裕があった。

 長州はバックドロップから、一気にリキ・ラリアット!
 猪木に対し真っ向勝負、小細工など必要ない。
 いつものように、自分の技をぶつけるだけだ。
 ここぞとばかり、サソリ固めを決めた。

 しばし耐えていた猪木は、前方に体を丸め、サソリから脱した。
 長州の技を受けきった猪木には、
かつて様々な強敵と死闘を繰り広げてきた、貫禄と偉大さが感じ取れた。
 長州を張る! 喧嘩殺法から一気に、延髄斬り!

 マットに這う長州を尻目に、猪木は観客の声援に手を挙げて応えた。
 そして、卍だ。

 卍固め。猪木の象徴でもあり、絶対的なフィニッシュ・ホールド。
 終わりだ。だが、試合はここで終わらなかった。
 意地か執念か、長州は卍を返した。

 「雀百まで踊り忘れず 三つ子の魂百までも」
 実況の古館が叫ぶ。
 我が子への愛情? 武士の情け? いや、違う。
 己の力を誇示するためだ。猪木は長州に再び卍をかけた。

 13分44秒、レフェリーストップ。
 「これ以上やりますとね、長州の首が折れますからね」
 長州は最後まで、ギブアップしなかった。
 猪木は長州を倒し、正規軍が勝利を収めた。

 長州が負けた悔しさは、私の中にはなかった。
 猪木が勝った喜びも、またなかった。
 あったのは、終わったという、安堵感のようなものだった。

 正規軍と維新軍の抗争は、これで一つ、ピリオドが打たれた。
 結果はどうであれ、決着がついたという事実に、
晴れ晴れとした、すっきりとした思いだった。

 長州は、猪木とは背に纏う修羅の数が違っていた。
 猪木に勝つには、まだまだ幾多の修羅場を潜り抜ける必要があったのだ。
 時期はまだ、早々だった。

 だが猪木と長州の戦いは、これで終わりではない。
 この日からまた、始まるのだ。
 今度は長州が猪木とどう戦うのか。その期待に私の心は躍った。

 勝ち抜き戦、面白かったなー。
 プロレスの楽しさ、醍醐味をあらためて感じさせてくれた。 

 

 

著者

たねってぃ

1970年生まれ 千葉県在住

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