この映画は、殺人を目撃した少年を巡るサスペンス中心に物語が展開し、
ラブ・ストーリーがメインというわけではない。
 だが作中で描かれたハリソン・フォードとケリー・マクギリスのドラマは、
私が見てきた映画の中で、最高のラブ・ストーリーだと言える。

ジョン・ブック

 ハリソン・フォードの数ある出演作の中で、一番の代表作だと思う。
 もちろん「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」よりも、
「ブレードランナー」よりもね。
 そういえば、ショーン・ヤングが演じたレプリカントの名前…。
 レイチェルという名の女に、縁があるんだな(笑)。

 タフで、無口で、不愛想。
 ハリソン・フォードのイメージ、そのまんま(笑)。
 ジョン・ブックは素に一番近いキャラクターじゃないのかな?

 レイチェルはジョンの姉から、ジョンについてこう聞かされる。
 「結婚の責任を怖がってる」
 「正しいのは いつも自分」
 「自分の力で 何でも片づくと思っている」

 上等、じゃないですか(笑)。
 信念がある。自分を曲げない。頑固。
 そんな男についていくのは、大変かもしれないけどね。

 ただし、信頼できる。それは揺るがない。
 信頼感を持つ。一番大切で、難しい事だ。

 原題「WITNESS」=目撃者。
 味も素っ気もないタイトルだが、そういう映画だ(笑)。
 邦題も頭に名前を付けただけだが、悪くない。

 殺人現場の目撃者は、8歳の少年サミュエル。
 サミュエル役のルーカス・ハースがかわいい。
 本当、純粋無垢な、何も知らない子供だ。

 サミュエルの記憶を頼りに、殺人事件の捜査は進む。
 やがて事件の真相を知ったジョン・ブック。
 自分も命を狙われる立場になってしまった。

 正義、という言葉がハリソン・フォードにはよく似合う。
 敵がどんなに強大であろうが、屈せず怯まず、立ち向かう。

 サミュエル、そしてレイチェルを守るために、命もかまわず投げ出す。
 傷ついた体を隠し、ジョン・ブックは2人をアーミッシュの村に、送り届けた。

アーミッシュ

 初めて観た時は、アーミッシュなんてまったく知らない。
 ああいった生活をしている人々が、現代のアメリカにいるなんて。

 宗教的な信仰の厳しさは、観ていて感じない。
 昔ながらの生活様式を、現代まで続けているといった感じだ。
 ドラマ「大草原の小さな家」のような、19世紀末の生活。
 まあ、田舎の暮らしだ。

 TVもない。ラジオもない。車もそれほど…いや、まったくない。馬車だ(笑)。
 電気も、ガスも、水道もない。
 自然と共生して暮らしている。

 深手を負ったジョンは、生死の境をさまよう。
 だが村の医者や、レイチェルの手厚い看病により、一命をとりとめる。
 ジョンは、そんなレイチェルを意識し始める。
 まー、そうなるよ、自然にね(笑)。

 アーミッシュのああいった暮らし。いいよなー。当時もそう思ったけど。
 日が昇り、沈む。それを感じられる生活。
 齢を重ねるごとに、その思いは自然と高まる。

 でも何より、レイチェルのような人がいればだけど(笑)。
 モノなんていらない。
 その人がいれば、いいのだ。

 体が回復するまで、ジョンはアーミッシュの村で過ごすことになる。
 サミュエルに村の中を案内されたり。
 午前4時。牛の乳を搾ったり。
 「乳に触るのは初めてか」
 「こんなデカいのはな」

 そんな中でレイチェルも、次第にジョンに惹かれていく。

 手渡されたレモネードを、ジョンは一気に飲み干す。
 その姿を見て、レイチェルも自分の気持ちの変化に、気付いた。
 しかし、アーミッシュとしての葛藤はまだ、残っている。

Wonderful World

  サム・クックの♪「Wonderful World 」が流れるこのシーン!
 もう、永遠だろ!
 この曲をふと耳にすると、このシーンが瞬間的に思い浮かぶ。
 そして切なく、感傷的になる。曲調はハッピーなのに(笑)。

 夜の納屋。ランプの灯りの下、車を修理していると、突然カーラジオの音が。
 おもわず、ジョン・ブックの顔がほころぶ。車が直ったのだ。
 そして、この曲が流れる。

 アーミッシュでは、音楽は禁止。
 ジョンの陽気な様子に、レイチェルは一瞬戸惑いの表情を見せる。
 ジョンはレイチェルの手を取る。
 音楽に合わせて、二人は踊り始めた。

 ぎこちなくも、ジョンのリードで踊るレイチェル。
 音楽を聴く楽しさを、この時初めて知る。
 そして、恋する人と一緒に踊ることの、素晴らしさを。

 一曲。時間にして数分。
 長い人生の中で、その時間はほんのわずかにすぎない。
 だが、2人が過ごしたこの数分間は、永遠となった。

Building The Barn

 このシークエンスの素晴らしさは、映画史においても語り継がれるべきであろう。
 この映画の最大の見せ場の一つだと言っていい。
 ピーター・ウェアーのセンスだよなー。
 さすが「ピクニック・アット・ハンギングロック」の監督!(笑)

 加えて、なんつっても、モーリス・ジャールの♪音楽だ!!
 まさに荘厳。優雅、華麗。力強く、重厚な旋律 。
 素晴らしいよ。もう、始まりからさー。

 心の奥から、ジワ~と揺さぶられる。
 勇気が湧いて出てくる。
 そう、それでいいんだ、と。慈愛に満ち溢れている。

 村人たちが力を合わせ、一つの建物を建てる、造り上げる。
 汗をかいて、働くことの喜び。
 その行為に、人間の本質、歴史、文化が、垣間見られる。
 永遠と続いていく、受け継がれていく、生と死。

 全てを見せられたような気がする。
 生まれ、愛し、死ぬ。 人間が生きる、という事が。
 すべてがこのシークエンスの中に、あった。

 大勢の村人たちがいる中で、二人はお互いの存在を意識し合っていた。
 レイチェルは、もう周囲の目など気にしない。
 むしろ、自分の気持ちを村の人々に見せつけるようだ。
 ジョンへの思いは、責められるような、やましい事などではなかった。

 日が暮れ、一日が終わった。
 完成した納屋は、新婚の若い夫婦に捧げられた。
 仕事を終えた村人たちは皆、帰路へ着いた。

 ジョンとレイチェルの思いは、確かなものになった。

レイチェル

 その夜、ポーチからレイチェルを見つめるジョン・ブック。
 ああ、切ない。もう、泣けてくる(笑)。

 日中の喧騒はそこにない。村人たちもいない。二人だけだ。
 目に映るレイチェル。側にいる。
 思いはさらに募り、胸の苦しさは増す。
 ジョンは自分の思いを、必死に抑え込もうとする。

 レイチェルは、ジョンを待っていた。
 たとえ村の住人たちから、「汚れ者」と罵られ、村から追放されようとも。
 ジョンを受け入れる覚悟は、できていた。

 だが、ジョンは耐えた。
 レイチェルを抱くことは許されない。 愛し合っているとしても。
 この時のジョンの辛さは、どれほどのものだったのだろう。

 ジョンはたまらず、レイチェルから視線を外した。
 レイチェルは静かに、ジョンに背を向けた。

 翌日、ジョンはレイチェルに告げる。
 「君を抱いたら 帰れなくなる」

 その答えは、レイチェルを愛するがゆえだった。
 レイチェルとサミュエルの、行く先を案じてのことだった。

 レイチェルもジョンの気持ちは分かっていた。だが…。
 レイチェルは自分の思いを伝えようと振り返った。
 ジョンの姿は、そこになかった。

Rachel And Book

 サミュエルがジョンが作った木製の玩具で遊んでいる。
 レイチェルは別れの時を悟った。

 鳥小屋を直すジョン・ブック。
 元のままに。自分が来る前の状態に戻すのだ。
 自分がここにいた事実を、かき消すかのように。
 ジョンは決心を、固めていた。

 レイチェルは遠くからジョンを見つめた。
 自分の思いが、変わることなどなかった。
 アーミッシュの帽子を脱ぎ、置いた。
 そして、ジョンのもとに、走った。

 遮るものなどない。
 村の掟や罰など、そんなものは存在しなかった。
 ジョンを愛する思いだけが、そこにあった。
 全身に溢れるジョンへの愛で、喜びで一杯だった。

 ジョンは振り返った。
 近づいてくるレイチェルが見えた。
 ジョンはすぐに、レイチェルに向かって駆け出した。
 迷いなど、もうなかった。

 2人は抱き合った。そして、お互いを確かめた。
 この先、どんなに厳しい目にあおうとも、どんな罰を受けようとも。
 どんなに辛い、別れが来ようとも。
 この瞬間が、あればいいと思った。

イングリッシュマン

 夜が明け、新たな一日が始まった。

 その夜、二人はどう過ごしたのだろうか。
 もしかすると、ジョンはレイチェルと一緒になると、決めたかもしれない。
 レイチェルとサミュエルと三人で。
 どこか、静かな場所で暮らす。
 離れるなんて、できなかった。

 男たちが、村にやって来た。
 アーミッシュがイングリッシュマンと呼ぶ、欲と暴力の権化のような男たちだ。
 まだ事件は終わってはいなかった。
 ジョン・ブックは、決着を着けなければならなかった。

 サミュエルが鐘を鳴らした。響き渡るその音は、村の皆を呼んだ。
 ジョン・ブックはすでに、村の一員であるように見えた。
 だがそれは、間違っていた。

 ジョンは思い知った。
 自分がここにはいられない、外の世界の人間であることを。
 事件は解決した。
 立ち去らなければならなかった。

 ジョンはサミュエルと小川のほとりに腰を下ろした。
 サミュエルの頭を撫で、肩に手を置いた。
 言い残す言葉は見つからなかった。

 「さようなら ジョン・ブック」
 立ち上がり去ろうとしたジョンは、その声に振り返った。
 サミュエルの、精一杯の笑顔が見えた。

 ジョン・ブックとレイチェル。
 言いたい、伝えたい思いは、溢れるほどあった。
 だが、言葉にはならなかった。

 2人は顔を合わせ、お互いを見つめた。
 見つめ合うしか、なかった。
 無理にでも、微笑んだ。
 涙が溢れ、流れた。

 ジョンはレイチェルにゆっくり背を向けた。
 そして一歩、踏み出した。
 足取りは重い。立っているのもやっとだった。

 激しくこみ上げてくる悲しみに、思わず肩をすくめた。
 振り返ってはならない。
 ジョン・ブックは、車へ向かって、歩いた。

 レイチェルは、去っていくジョン・ブックを、じっと見つめていた。

 ♪モーリス・ジャールの音楽が流れる。

 一人のイングリッシュマンがアーミッシュの村に来た。
 男は次第に村での生活に馴染んでいった。
 そして一人の女性を愛した。女も男を愛した。
 だがやがて、男は元の世界へ帰って行った。

 男は立ち去らなければいけない。
 愛する者の側から。自ら背を向けて。
 なぜ、去るのか? 分からない。
 だが、そういう時が必ず来るのだ。

 ああ、切ない。いたたまれない。
 ったくさー。切なすぎるだろ。
 もう、映画から戻って来られないよ。

 どうして別れなければならないのか。
 あんなにお互い、愛し合っているのに。
 う~~~ん。

 高一の時、この映画を初めて観た。
 それから・・・
 私も辛い別れを何度か経験した。

 そんな時、映画を観ることは救いになった。
 映画の別れのシーンで、登場人物たちに自分を重ねた。
 辛い事実を受け入れることへの、助けとなった。

 でもこの映画だけは、そんな時でも、観ることはできなかった。

著者

たねってぃ

1970年生まれ 千葉県在住

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