’76年、猪木は蔵前で、異種格闘技戦を闘った。
 相手はなんと、現役のボクシング統一世界ヘビー級王者だ。
 アリ! あの、モハメド・アリだ!!
 この試合が実現した事は、まさに奇跡としか言いようがない。

 だが、’80年に行われたウィリー・ウィリアムスとの対戦もまた、
私には実現した事が奇跡に近いと思えるのである。

 猪木vsウィリー戦は、プロレスvs空手であった。
 そして、新日本プロレスvs極真会館、であった。
 団体の存亡が懸けられた、天下分け目の一戦だったのである。

 リアルタイムでこの試合を観て以来、長い間再び観る機会は訪れなかった。
 私の中では、猪木の試合の中で一番観たい、伝説の一戦となっていた。
 その思いを胸にしまったまま、私は大人になっていった。

 その間に、この一戦について書かれた、様々な本や雑誌に出会った。
 それにより、この試合の裏側に潜んでいた、幾つものエピソードを知った。

昭和55年

 ’80年代が幕を開けた。当時、私は9歳、小3。
 もうすぐ10代になろうかという、ちびっ子ファンの一人だ(笑)。
 猪木の試合はもちろん、毎週欠かさずTVで観ていた。

 猪木の異種格闘技戦は、プロレスラーを相手にした通常の試合とは違った。
 NWFのタイトル戦以上の重みを感じて、幼い私は試合を観ていた。

 シンやアンドレ、ハンセンとは違い、
ウィリアム・ルスカやモンスターマンは、「外敵」といった感が強かった。
 だからこそ猪木の勝利は、より一層の興奮と喜びを、ファンたちにもたらした。
 当時のちびっ子ファンにとって猪木は、外敵に立ち向かう、ヒーローだったのだ。

 そのヒーローの前に現れた最強の敵が、ウィリー・ウィリアムス、であった。

 ウィリー・ウィリアムスの名前は知っていた。
 漫画「1・2の三四郎」の中で、この試合の話題が何度か登場していたのだ。
 当時の子供は皆、「1・2の三四郎」を読んで、育ったのだ(笑)。

 同時期の「週刊少年マガジン」には、「四角いジャングル」も連載されていた。
 いわば、その日のスポーツ新聞の記事を、漫画化したようなものだ。
 毎週、リアルタイムで、猪木、ウィリーの動向を伝えていた。

 その「四角いジャングル」の原作者が、
猪木vsウィリー戦で立会人を務めた、梶原一騎だった。
 この一戦が実現したのは、梶原一騎がいたからこそであった。

「地獄からの生還」

 猪木vsウィリー戦に関し、全ての真相がこの本の中に書かれてある。
 おそらく真実である、と思う(笑)。
 残念だが、それが書かれてしまってあるのだ。

 読んだ時には、まぁ、ショックを受けたよ(笑)。
 マジか!? その連続。
 ああ、知りたくない。読み進めていくのが怖い。
 でも読みたい。とてつもなく、面白い(笑)。

 猪木「監禁」事件、についても書かれている。文中にこうある。
 「ここではっきり断っておく。
  万一、私や添野が本気で猪木をシメる気なら任侠の徒など使わぬ。」

 え?! 私はしばし放心し、その一文を反芻した。
 猪木をシメる。猪木を、シメる? 猪木を… シメる!!
 すげー! そんな言葉、成立するのか?(笑)
 猪木をシメる、なんて。思いつくのは、梶原一騎だけだよ(笑)。

真樹日佐夫

 ’93年頃から、私は「格闘技通信」などの格闘技系の雑誌を読み始めた。
 その過程で、真樹日佐夫を知った。

 内容の面白さもそうだが、簡潔で端正な文章に、とても惹かれた。
 私は真樹日佐夫の著書を次から次へと読んだ。
 「マッキーに訊け!」 もう、バイブルだったね(笑)。最高だった。

 何より、真樹日佐夫、その人が大好きだった。
 男として憧れ、慕った。心酔していた。

 「大山倍達との日々 さらば、極真カラテ!」
 第八章「ウィリーVS猪木戦の舞台裏」に、次のように書いてある。

 「ウィリー対猪木戦でもしウィリーが猪木に敗れた場合、
会場の混乱に紛れて猪木を襲い、序でに梶原、黒崎の両名も袋叩きにせよ、
という秘密指令が極真会館上層部より同館幹部の何人かに出されている」
という物騒この上ない情報がある筋からもたらされていたのである。

 う~ん、マジか!? 怖い!(笑)
 この試合は、極真内部にも、大きな亀裂を生んでいたのである。
 大人って、怖いなー。

「空手バカ一代」

 「空手バカ一代」を読んだのは、私が三十歳前後の頃だったと思う。
 まー、どっぷりハマったわ。
 その時一瞬、真剣に入門を考えた(笑)。
 読んだのが十代の時ならば、間違いなく空手を始めてたであろう。

 もちろん全て、ノンフィクションだと思って読んでいた。
 香港カンフーとの対決、映像、残ってねえのかな? なんて(笑)。
 疑う余地など毛頭ない。それほど熱狂して、読んでいたのだ。

 この漫画には、黒崎健時、大山茂、大山泰彦、添野義二が登場している。
 読んだ者には、伝説の存在だ。
 その伝説の面々があの日、会場でその姿を見せていた。

燃えろ!新日本プロレス

 2012年。猪木VSウィリー戦が収録された「燃えろ!新日本プロレス」が発売された。
 様々な思いを抱きながら、私はこの試合を観た。

 私はリング上だけではなく、2人を取り巻く両陣営に注目して、試合を観ていた。
 特に、極真サイドに目を凝らして観ていた。
 セコンドだけではない、客席もだ(笑)。

 漫画や活字、写真でしか知らない、伝説の空手家たちの姿がそこにあった。

 私は館内に充満していた殺気を、当時以上に感じていた。