世紀の一戦は、2R、両者リングアウトに終わった。
 だが、館内のファンはその結末を許さなかった。
 勝負の決着を見届けるまで、その場所を離れるわけにはいかなかった。

試合続行

 「猪木のこの出血はね セコンドが手を出したんじゃないですかね」 
 解説の桜井さんが言う。
 おそらく、ド派手な黒のレザーコートでキメている、あの男だ(笑)。

 レフェリーが猪木に試合続行の意志を確かめる。
 「やってやるぞ この野郎!」
 続いて、ウィリー陣営にも。
 「カマン!!」 大山茂が叫ぶ! めちゃめちゃ気合入ってるぞ。

 猪木がマイクで叫ぶ! だが、何を言ってるのか分からない。
 鬼の形相で、極真サイドに対し激しく怒りをぶつけている。
 そんな猪木を、黒崎健時はまったく動じることなく、なだめている(笑)。

 立会人の梶原一騎がマイクを持ち、裁定を下す。
 「双方の言い分を聞いた上で 第3Rから試合続行!」

 赤コーナーのリング下に、真樹日佐夫の顔が見える。
 兄貴の身を案じ、気が気でないのだ(笑)。

 猪木の闘魂に、ようやく火がついた、か?

3R

 ゴングと同時に、猪木が勢いよく飛び出す。
 ウィリーがパンチのラッシュ! 猪木は亀になりマットに膝を着く。
 ウィリーのヒジ! 間一髪、猪木はリング下へ逃げる。

 ウィリーの右と猪木の張り手が交差する!
 エキサイトしたウィリーの左右のパンチをかいくぐり、猪木が組みつく。
 外から脚を刈り、グラウンドへ。脚を取ろうとするが、両者はもつれリング下へ。

 先にリングに戻ったウィリーは、猪木に来いと挑発。
 右上段から左後ろ回し蹴り! ロープに追い詰めた猪木に、右ヒザ!
 続けて、ヒジを落とす!

 猪木がウィリーを投げる! ウィリーの巨体が一回転!
 腕を取り、十字に行こうとしたその瞬間。
 ウィリーの蹴りが猪木の顔面を捉えた!!

 倒れた猪木に、すぐさま上から襲いかかるウィリー。
 猪木はウィリーの体を脚で挟み、グラウンドに持ち込む。

 猪木がウィリーの右腕に十字を極めにかかる。だが、態勢は不十分だ。
 「寝技は5秒以内!」 レフェリーが両者をブレイクさせる。

 組み付いたところで、3R終了のゴング!
 が、ゴングの後に、猪木がウィリーにエルボーを放つ!
 さすが百戦錬磨、したたかな猪木(笑)。
 なんと、これが効いた!

4R

 インターバルの間もウィリーはうつむき、首を振っている。
 意外にも、打たれ弱かったのか、ウィリー?

 4Rのゴングが鳴った!
 ウィリーはフラフラと対角の赤コーナーの前へ。
 ダメージを振り払うかのように、「オス!」と気合を入れた。
 そして振り返って、猪木と向き合い、吠えた!

 ウィリーが飛び蹴り! お返しとばかりに、猪木がドロップキック!
 なんか、プロレスチックな展開になってきた(笑)。

 猪木がコーナーのウィリーに組み付く。
 ウィリーが強烈な左ヒザを2発! 猪木が声を上げ、呻く。
 右ヒジ! 左ヒジをかわした猪木は、投げでウィリーもろともリング下へ落ちた。

 場外。再びウィリーがマウントになった。
 だが立ち上がった猪木は、ウィリーを投げ、腕十字を決めた!
 ウィリーはもがき、蹴りを伸ばす。

 ゴングが鳴った。両雄はすぐさま両陣営によって引き離された。
 ウィリーは右腕を抑え、顔をしかめている。
 猪木は、うずくまったまま動かない。

 大山茂が、ウィリーのグローブを取った!
 「反則でも何でもいいから素手でブッ叩いて殺してしまえ!」
 そうウィリーをけしかけたのは、黒のレザーコートを着た、あの男だ(笑)。

 リング上は、再び関係者でごった返した。
 混乱の中で、大山茂がまた新間を突き飛ばした(笑)。
 あわてて間に入った大山泰彦を、今度はミスター高橋が突き飛ばす。
 この日の泰彦。本当、災難だったよ(笑)。ご苦労様でした。

 猪木がようやく、ロープ下段から、転がるようにリングに入る。
 左脇腹を抑えたまま、立ち上がることはできない。
 痛々しいその様は、敗者そのものだ。

 「リングの下なら15カウントですね その間に折ろうという気があったと思うんですよ」
 解説の山本小鉄が言った。

 4R1分24秒、両者ドクターストップ。引き分け。
 運命の一戦は、館内騒然のまま、幕を閉じた。

試合後

 私は当時、小3。もうすぐ高学年になろうという歳だった。
 子供ながらにも、この試合の異様な雰囲気は感じていた。
 両陣営が放つ殺気が、ブラウン管から伝わったのだ。

 「猪木のアバラが折れる ウィリーの右腕が折れる」
 殺伐とした空気に飲み込まれたまま、ガキの私はその結末に呆然としていた。

 猪木が勝てなかった。それが、とてもショックだった。
 ガキの眼にも、試合後の猪木の姿は、負けに映った。
 受け入れ難い現実の厳しさを、その時初めて味わったと思う(笑)。
 苦い思いを噛みしめたまま、私は高学年に、そして、十代になった。

 結局、リアルファイト、だったのか?
 真相は、言わずもがな、である(笑)。
 いや、そんな事など、どうでもいいのだ。

 この試合には、私を惹きつけてやまない、何かがある。

 ウィリー・ウィリアムス! やっぱ、ウィリーだ!
 蹴り! ヒジ! ヒザ! 凄かったなー。
 たとえその力を、6割ほどにセーブしていたとしてもだ(笑)。

 熊殺し。その名に恥じない、素晴らしい存在感を存分に見せた。

 ウィリーがもし、フルパワーで・・・。
 いや、それは想像の中だけに、留めておいたほうが良いのかもしれない。

 この試合はまだ終わってはいない。「未完」のままなのだ。

 まだ夢を見ている。醒めない夢を見ているのだ。
 永遠に完結しない、夢を。

 ウィリーは試合後、帰国して本来の仕事に戻った。
 幼稚園のスクールバスの運転手だ。
 優しい眼をした、子供好きのウィリーに、リングでの闘いは似合わなかったのかもしれない。